穂高一帯はこれまで天気に恵まれてこなかった。2000年8月の奥穂高岳は初日の涸沢迄は好天ながら、肝心の奥穂高山頂は雨交じり。2010年9月の前穂高と2012年10月の西穂高は、登山口では晴れていたものの山頂はガスがかかり、山頂からの展望は得ることが出来なかった。今回の北穂高岳は、うって変わって好天に恵まれ、これまで3回分の展望を一気に取り戻した様な山行となり、大展望に充実した山旅となった。
また今回は、テント泊ではなく小屋泊まりで軽量化を図ったおかげで、無理なく3日間の山旅を終えることが出来た。
■13日■上高地BT6:05→明神6:50~7:00→徳沢7:50~8:00→横尾8:55~9:15→本台橋10:10~25→Sガレ先11:15~20→涸沢小屋12:10
■14日■涸沢小屋5:10→南陵取付下部6:10~20→南陵取付先6:40~45→クサリ上部7:20~25→分岐7:40→北穂高岳8:00~35→分岐8:45→クサリ上部8:55~9:00→南陵取付下部9:50~10:00→涸沢小屋10:50~11:35→Sガレ先12:20~25→本台橋13:05~15→横尾14:05
■15日■横尾5:00→徳沢5:55~6:00→明神6:45~55→上高地BT7:40
乗合タクシーで上高地へ
1時過ぎに東京を出発、沢渡には5時過ぎに到着した。装備を固めてバスの時間を見ると、休日は4時台からあるのに平日の始発は6時。大部待つかなと思っていたら、既に一回上高地まで客を乗せたタクシーが戻ってきて、居合わせた4人乗合いで上高地まで入ることにする。一人当たりの料金も1050円でバスの往復券と同じ額で行ってくれた。お陰で6時少し前に上高地へ入ることが出来た。
朝霧の中を歩き始める
初日の13日早朝は、天気は良さそうだが薄靄のかかる朝だった。梓川には靄がかかり、日が差し始めると、登山道は幻想的な光景に包まれた。木々の間から見え隠れする明神山の頂がはっきり見える様になった頃、明神館に到着。一休みする。
明神からさらに遊歩道を小1時間行くと、徳沢に到着。広い草原のキャンプ場の奥に、ログハウス風の徳澤園の建物が建っていた。1階がカフェになっていて、表にはベンチもある。ソフトクリームを頂いたが、登山道脇に洒落た御店があるとは、さすがは上高地だ。徳沢からさらに1時間程で、横尾に到着。明るい色の大きな建物になっていていた横尾山荘で、明日の宿泊を確認する。昨日買った柿の葉寿司を少し腹に入れた。
横尾から登山道歩きに
道は横尾から槍ヶ岳への道と別れ、横尾谷に沿って進むようになる。最初は幅広で平坦だった道も、屏風岩を回り込むあたりから登山道らしくなった。横尾から1時間、本谷橋に到着。橋を渡たり、湧水の処で一服する。休むのに丁度よい場所とみえ、殆どの登山者が此処で休んでいた。
涸沢小屋に到着。
本谷橋を渡ってからは、九十九折の坂道が始まる。急傾斜という程ではないが、いよいよ山道らしくなった。横尾谷が涸沢と横尾本谷とに別れる辺りでは、谷の対岸の奥には南岳へと続く稜線が眺められる様になる。程なくSガレを通過。Sガレは幅広いガレ場で、石畳状の登山道が横断している。「落石注意・途中で休むな」という看板が立っていた。登山道が高度を上げ、沢筋の直ぐ横を進む様になると分岐が現れる。直進すると涸沢ヒュッテだが、今回予約したのは涸沢小屋。分岐を右に曲がり小屋への道をとる。上高地から約6時間、漸く涸沢小屋に到着した。
涸沢カールを眺めながらの生ビール
涸沢小屋は涸沢カールの北側、南斜面に建っている明るい小屋で、玄関前はテラス席になっていて涸沢カールの下部を見下ろすことが出来る。受付を済ませ部屋へ2階の部屋へ向かったが、今日は連休前で混雑もそれ程ではない様だ。8畳の部屋には布団が8枚用意され、一人1畳はスペースがある。荷物を整理し着替えてからテラス席へ向かう。生ビールと枝豆のセットと、ラーメンを注文した。〆て2000円也。生ビールは1杯800円だが、古い記録を見たら2000年8月の時も800円だった。18年経っても値段は据え置きとは嬉しい限りだ。ビールが美味しく、涸沢の景色を眺めながら、おでんも追加し何杯もお代わりをする。宿泊は1泊2食で9300円だったが、ビールとつまみ代が結構かさんでしまった。夕食は17時30分からで、おかずのメインはハンバーグ。付け合わせが何品かあり、御飯と味噌汁で、美味しく頂くことが出来た。
食後は少しの間横になっていたが、この時間に寝ると夜が寝られなくなる。テラスに出て夕暮れ時の涸沢の景色を楽しむことにした。消灯は19時30分。電気設備のトラブルで少し遅れたが、主な照明が暗くなると夜空の星が楽しめる様になった。テラスには星の撮影が目的の登山者が三脚を構え、星を撮っている。聞くと真夜中過ぎに天頂に上がる天の川が狙いとの事。山を入れて星空を撮るために涸沢に来たとの事だった。他にも小笠原まで星を撮りに行ったという登山者もいて、夜の星を楽しむ山も良いものだなと思った。
北穂高岳へ
2日目は4時過ぎに起床、小屋の朝食を変えてもらった弁当を少し口にしながら、出発の準備を進める。朝日に染まる涸沢が美しい。装備を整え5時過ぎ、小屋の脇から始まる北穂高岳への登山道を歩き始めた。
道は最初のうち北穂高沢の雪渓脇を登っていく。登山道脇の流水が冷たく気持ちが良い。歩き始めて1時間弱で大きな岩くずのガレ場に差し掛かる。ガレ場の上部で道は左側の斜面へと向かうが、此処で一休み。涸沢のテント村が随分下に見える様になっていた。例年の7月であれば、この辺りは雪渓が登山道を覆い注意して南陵取付きへと進むのだが、今年は雪が消えるのが早く登山道の直ぐ上で雪渓は終わっていた。
道は最初のうち北穂高沢の雪渓脇を登っていく。登山道脇の流水が冷たく気持ちが良い。歩き始めて1時間弱で大きな岩くずのガレ場に差し掛かる。ガレ場の上部で道は左側の斜面へと向かうが、此処で一休み。涸沢のテント村が随分下に見える様になっていた。例年の7月であれば、この辺りは雪渓が登山道を覆い注意して南陵取付きへと進むのだが、今年は雪が消えるのが早く登山道の直ぐ上で雪渓は終わっていた。
北穂南陵を登る
南陵への取付きは、岩の片斜面を鎖場と梯子で登っていく様になっていて、足場を確かめながら慎重に登る。梯子を登り切ると北穂高岳南陵へと飛び出て、正面に奥穂高岳が間近に望める様になった。斜面に残雪を残す奥穂高岳と涸沢岳が青空をバックに並んでいる姿は、神々しく感じる程だ。そして涸沢カールの向こう側には前穂高岳。北アルプスの核心部に来たことが実感できる絶景が広がっていた。
南陵の登りは傾斜がきつく、踏んだ石を落とさない様に慎重に登っていった。辺りには高山植物の花畑も現れ、疲れを癒してくれる。景色を楽しみながらの登りだった御蔭で、いつの間にか高度を稼いでいるといった感じで、南陵上部に辿り着いた。
北穂高岳山頂からの大展望
南陵の上には幕営地が設けられていて、青色のテントが一張設営されていた。小屋までの距離はまだかなりあり、天気が崩れたら大変な場所だなと思いながら脇を通過。南岳から槍ヶ岳へと続く縦走路との合流点に到着。ここから登山道は一旦下る。北穂高岳頂上との間の鞍部には残雪が残っていて、例年の7月ならばアイゼンを装着して通過する場所だと思うが、今年は雪解けが進み岩壁と残雪と間には隙間が出来ていて、雪を踏むことなく通過できた。そして最後の斜面を登りきると、北穂高岳山頂に飛び出る。其処には素晴らしい景色が広がっていた。正面に槍ヶ岳、右手には大天井へと続く稜線。左手には立山から薬師岳。振り返れば涸沢岳から奥穂高岳。そして前穂高岳。北西には遠く白山も見える。360度の大パノラマにただ圧倒された北穂高岳の山頂だった。
北穂高小屋テラスでのビール
山頂直下には北穂高小屋がある。ここで冷たい缶ビールを購入。1本500円は涸沢と同じ値段で、山頂でのビールとしては安く感じる。山小屋の南側には展望テラスが設けられ、絶景を見ながら休むことも出来た。実に贅沢な小屋だ。
名残惜しい山頂ではあったが、今日は横尾まで降りることを考え35分の滞在で下山を開始。南陵への下山路の途中、前夜涸沢小屋で星を見ながら会話した登山者と挨拶を交わす。今日は北穂高小屋泊まりというのが羨ましい。下山は楽かと思いきや、南陵と取付の鎖場などは、登りより下りの方が足場の確保に苦労した。
横尾山荘へと降りる
2時間30分の下りで涸沢小屋へ到着。先ずは生ビールとラーメンで一人北穂岳登頂を祝う。小屋にデポした荷物をパッキングし直し、横尾山荘へと下ったが、今日上高地から涸沢へ登る大勢の登山者とすれ違った。上高地から約6時間、6時頃に出発した人が、丁度涸沢に到着し始める時間だ。今日の涸沢は大賑わいになるのだろう。横尾山荘には14時過ぎに到着。受付を済ませて部屋を指定されたが、2段ベット2組が部屋の左右に置かれた8人部屋で、山小屋としては贅沢なスペースが確保されていた。夕食のおかずの種類も豊富で、この日も美味しく食事を頂くことが出来た。食後は表に出て、小屋で購入したワインを飲みながら、暮れ行く山景色を眺めた。北海道出身の2人組の登山者の方と隣り合わせで話をしたが、今日は横尾まで入りテント泊。明日は北穂高岳まで上がり小屋泊りだという。横尾までなら道は平坦で、重い荷物も苦にはならない。テント泊と小屋泊りを組み合わせる方法も良いものだなと思った。
上高地を後にする。
最終日は朝日に染まる前穂高に見送られ、5時に横尾を出発。徳沢、明神を経て上高地バスターミナルへは7時40分に到着する。沢渡への路線バスは7時55分発で、大型の観光バスだった。登山者の大きな荷物を座席下のトランクルームへと収納できる様になっている。朝の時間帯で空いていたが、混雑した時などは荷物がトランクルームに収納できるのは、登山者にとってはありがたいと感じた。沢渡には川向うに立派なバスターミナルが出来ていて、此処を経由してから、車を停めた沢渡大橋に到着。こうして天気にも恵まれ、大展望を満喫した北穂高岳山行の幕が閉じた。