フットパス
イギリスの国土は全般的に平坦な土地が多く、高山と言える様な山は少ない。登山と言える様な山歩きが出来るのは、スコットランドやウエールズ、湖水地方等の限られた地域になってしまう様だが、歩く事を楽しめる場所という視点で見ると、それこそ全国にウオーキングを楽しむルートが整備されている。パブリックフットパスと呼ばれている歩行者専用の遊歩道(中には乗場OKの遊歩道もある)が、畑や森の中、丘陵が続く牧草地、住宅街の脇から公園や運河沿いの小路まで、イギリス全土に張り巡らされているのだ。誰もが自然を共有し、そこを通行する権利があるという考え方が根づいていて、私有地を横切る事も多い。
フットパスを歩いていると、木の柵や石段を登って通過するゲートに所々で手出会う。羊などの家畜が柵の外に出ないようにしながら、人が通行できる様にと設けられたもので、木柵を互い違いにしていたり、高い踏み台を設けている場所もあった。このゲートはキッシングケートと呼ばれているが、私有地の境界線上に設けられている事が多い。昔、農場で働く使用人同士が別れのキスをする場所から、そう呼ばれる事になったらしい。
世界史で、毛産業の発展とともに「囲い込み運動」が進展し、土地を追われた農民が都市に流入して、産業革命後の工場労働者になっていった。という事を習った記憶がある。その時には何故「囲い込み」が必要だったのか理解できなかったが、なるほど羊を放牧する場所が増えてくると、放牧地同士の間に柵が必要になる。これが無いと土地が平坦なイギリスでは、羊は草を食みながら何処かへ行ってしまうに違いない。こうして出来た1m程の石積みの壁が「囲い込み」の壁で、もともと自由に通行で来た場所が柵で囲われてしまった為に人の行き来が出来なくなり、それでは困ると、誰もが通行できるフットパスが設けられていったのではないだろうか。キッシングケートは、木の柵だったり、石の段だったりするが、普段は閉っていても簡単な操作で通り抜けできる場所が多かった。中には犬と歩く人の為に、犬の専用ゲートがある所もあった。
イギリス人は、週末や仕事が休みの日には、カントリーサイドでこのフットパスを歩く事を楽しんでいる人が実に多く、こうした人達とすれ違いながら美しいカントリーサイドを歩くことは、イギリスを旅行する大きな楽しみではないかと思う。ここでは2010年の6月に歩いたルートを紹介してゆきたい。