湖水地方を歩く (ウインダミア~グラスミア)
湖水地方は、「英国で最も美しい景勝地」と言われ、東京都と同じぐらいの広さの中に、大小500以上の湖や池が美しい山々の中に点在している地域だ。賑やかな観光地のそばに、豊かな森林や小川、静かな湖面、そして昔ながらの佇まいを残す小さな村々があり、それをフットパスが繋いでいる。トレッキングをする者にとっては夢のような場所だ。本来、現地で宿泊しあちこち歩きたかったのだが、ロンドンからの日帰りという事で、交通の便の良いウインダミアからライダル湖・グラスミア湖周辺を歩くことにした。
ウインダミア→🚌→アンブルサイド→👟(ロセイ川南岸)→ライダル→👟(ライダル湖グラスミア湖南岸)→グラスミア→👟(コフィンパス)→ライダル→🚌→ウインダミア→👟→オレストヘッド→👟→ウインダミア
〇 ロンドンから湖水地方の玄関口ウインダミアへ
湖水地方への列車の始発駅はユーストン駅。バーミンガム、グラスゴー方面の始発駅だ。グラスゴーへの路線は、西海岸を走る主要幹線で1時間毎に高速列車が走っている。ユーストン発の特急の始発は5時39分発。ブリットレイルパスの御蔭で、今日もゆったりとした1等車だ。この路線では、予約席は座席上の小さな電光掲示板に表示がされていた。 No Reserve、若しくはAvailableの表示がある席が、予約の入っていない座席だ。シートは2列と1列で、向かい合った座席設定が多かった。 この路線もビジネスマンが多く、ラップトップパソコンで仕事をしている人が多い。座席と座席の間には広いテーブルがあり、座席毎にティーカップが置かれている。 走り出して暫くすると、御茶のサービスが始まった。 そして朝食のオーダーを聞きに来るではないか。朝食がサービスされると言う。勿論Yes Pleaseで、どんなものが出てくるかと思ったら、スモークサーモン、スクランブルエッグ、ベイクドポテトに、温められたパンが出てきた。味も良い。
電車は定刻の8:43にオキシフォンに到着。 ここで湖水地方へ向かう電車に乗り換え、ウインダミアには9:33に到着した。
〇 ウインダミアからバスでアンブルサイドへ
ウインダミアは湖水地方への玄関口の駅で、駅前には立派な観光案内所がある。此処でトレッキングマップを購入し、駅前のバス停留所に並ぶ。 グラスミア方面への路線バスは525番で1時間に1本程度なのだが、599番を付けた二階がオープン座席になっているバスが直ぐやってきた。運転手に聞くと、夏の観光シーズンに増発される臨時ダイヤの路線バスだと言う。ケンダル、グラスミア間を20分に1本の割合で走っていた。 このバスに乗って、予定より早い時間に今日の出発地アンブルサイドに到着した。
〇 アンブルサイドからフットパスに入る
フットパスは、アンブルサイドの街外れから始まっていた。 小さな石橋を渡り、其処からは花の多い奇麗な庭が次々現れる小道を進む。散歩を楽しんでいる人が沢山いて、皆楽しそうに歩いている。緑が眩しい。イギリスでは歩く事が楽しみになっていて、フットパスが全国に張り巡らされている国である事が、素直に理解出来る。すれ違う人、追い抜く人と自然に挨拶を交わしていると、自分も此処の風景に溶け込んでいるんだなと感じる。何だか嬉しくなってきた。
〇 丘を越えてライダル湖へ
歩き始めて30分程度でライダルの街を通過。登山道の様な処を抜けると、目の前にライダル湖が現れた。湖面に対岸の山が見事に映っている。ライダル~グラスミアのフットパスは、湖面の近くを歩きたいならば、南岸に沿ったフットパスを歩くと良い。眺めが良くて山の中腹を辿るルートが良ければ、北側のコフィンパスを使うと良いだろう。南周りだと2時間程度、北側のコフィンパスならば1時間30分程度見れば良いと思う。
〇 自然の中を歩く (ライダル湖・グラスミア湖間)
フットパスは美しい田園風景の中を進むことが多いのだが、こと湖水地方ではまるで登山道の様に、自然の中を歩くことも多い。ライダル湖からグラスミア湖へと向かうフットパスもそんな道で、小さなアップダウンを繰り返していた。ただ景色は複雑で、刻々と眺めが変わる。次の風景を追いかけている内に自然と距離を稼いでいる、そんな時間を感じさせない道だった。
〇 小川沿いにグラスミア湖へ
小川のせせらぎを聞きながら下っていくと、静かなグラスミア湖が現れた。雲が出てきて青空が隠れてしまったのが残念だが、静謐で何か神秘的な静かさがある。かつて「知られざる天国」とも呼ばれたグラスミア湖。その佇まいの中を歩いていると、何か穏やかな気分になる。グラスミアは、かつて「自然詩人」とも呼ばれたワーズワースの住んだ街だが、こんな景色に囲まれているからこそ、英国人が理想とする田園生活を思い浮かべられる詩を生み出すことが出来たのだろう。
〇 グラスミアとダウコテージ
グラスミアは小さな街だが、観光客が多く、カフェテラスやレストランも多い集落だ。街外れには大型バスの駐車場もあり、ここでトイレをお借りした。グラスミアの街外れには、ワーズワースが暮したダウコテージがある。よく手入されたコテージと庭を見学してから、タウンエンドの小集落(写真)を抜け、コフィンパスへと向かった。タウンエンドの集落は何軒もない小さな集落だが、この地方独特のスレートを積み上げた家が良く残っていた。
〇コフィンパスを歩く (ダウコテージからライダルマウントへ)
コフィンパスは、グラスミアのダウコテージからライダルマウントを結ぶフットパスで、通称「ワーズワースの小道」と呼ばれているクラッシックルートだ。距離は2.5キロ位いで、景色を楽しみながらゆっくり歩いても1時間30分程度。「湖水地方を手軽に歩いてみたい」と思う人には、お薦めのルートだ。 この道は昔、棺桶を運ぶルートだったので「コフィン(棺桶)パス」と呼ばれているが、結構起伏の多い道で、このルートで棺桶を運ぶのは大変な仕事であった事だろう。ルートの途中には所処にベンチが置かれていて、休むのに丁度良い。足場も比較的しっかりしているが、何しろ雨の多い湖水地方だ。濡れるとけっこう滑りそう。もし此処を歩くのなら、トレッキングシューズは必要だろう。
ライダルマウントのバス停に着くと、丁度バスが来た。お陰で予定より随分早く、ウインダミアまで戻る事が出来た。
〇 オレストヘッドで湖水地方を一望する
ウインダミア駅で時間を確かめると、まだ1時間程度の余裕がある。駅前の食品スーパーbootで冷たいビールを買って、オレストヘッドに登る事にした。住宅地の裏手から始まるフットパスは、次第に傾斜を増して道も細くなる。高度を上げていくと樹林が終り、突然視界が開けた。駅から徒歩約20分でオレストヘッドに到着。丘の頂上は、今日一番のビューポイントだった。展望の良い丘の上には小さなベンチが置かれ、湖水地方の景色を一望する事が出来た。緑に囲まれたウインダミア湖が眩しい。ふと「埴生の宿」のメロディーが浮かんで来た。
Home Home Sweet sweet home... 何故か涙が浮かんで来る。景色と旅情に素直に感動したオレストヘッドだった。